第二次世界大戦〈1〉 (河出文庫)

第二次世界大戦〈1〉 (河出文庫)

パブリッシャー
河出書房新社
価格: ¥1,260

第二次世界大戦〈1〉 (河出文庫)のレビュー

全政権与党国会議員は読了を義務付けるべき
チャーチルが世に自らの歴史的な正しさを示すべく記述しているという前提で読んだとしても、というかそういう前提だからこそこのような政治家(本書を独力で著しうるということを含め)が存在しえた英国の幸せを思わずに居られない。各巻読みどころだらけだが、第1巻では対戦前夜が語られる。
チェンバレンの宥和政策が陥る戦略上の失策(そして選挙主義)と、しかし、世論がそのときどうであったのか(戦争回避を世論は大歓迎している、そしてフランスの無防備)、過去ナポレオンに攻められた経験を持つ英国民ですらかかる選択しかなしえなかった歴史上の事実から、我が国もまた致し方なしと思うべきなのか・・・等、英国と我が国とを時空を超えて対比せざるをえない。戦争を語っているが、戦争前夜、戦争中そして戦後に向けての英国政体に関する、議会政治家であるチャーチルを通してみた民主政治の極めて示唆に富むテキストである。また、議会制民主主義国家においても、最後の一人まで戦う決意を政治家は言うべきときがあり、だからこそ今、欧州に自由が存在していることをよく噛締めるべきである。
いずれの立場に立つにせよ、政治家、または政治を語る者は、本書を読了するまでは外交、安全保障について語るをことを禁ずるべきと感じざるを得ない。
第二次世界大戦前後の欧州の事情を簡明に知るには、岩波に「第二次世界大戦前夜のヨーロッパ」」、「第二次世界大戦下のヨーロッパ」という笹本駿二氏の新書がある。古書で廉価で手に入るのであわせて読まれると理解が早い。こちらはかなり簡便に当時の事情を知ることが出来る。
なお、他の方も述べているように和訳は惜しまれる(だから星4つ)。誰か、欧州外交史の専門家か軍事史家が再訳(出来ればしっかりした訳注付で)をしてほしいものである。労なく原著で読める人がうらやましい書籍である。
ノーベル文学賞
ノーベル文学賞を受賞したイギリスの元首相による
第二次大戦回顧録です。第一次大戦の終結から本書は
書き始められますが、最初の章題は勝者の愚考となって
います。まさに戦争に勝ったもののほうがおろかな行為
を犯したということです。民主主義的対話のもとに
得られたのは民主主義国の住民の圧倒的多数の意見・・
つまり徹底的な非軍事的経済的報復でした。
それが更なる悲劇を産むことになります。スリリングな
書物です。
名著ですが、迷訳
戦争指導者本人が書いた第二次世界大戦の回顧録であり、ノーベル文学賞をとった一級の書物。
1巻では戦争前の状況や自身の行動が克明に描かれており、現実主義者としての彼の考えがよく分かります。

ですが、明らかに訳し方が酷いです。
どこがと言えない位に多くて、その度に読んでいて「あれ?あれ?」と思い、かなりストレスを感じました。
チャーチルの考察の部分が上手く訳されていないと他の方のレビューでも書かれていますが、それだけでなく軍事的な知識を持っていない人が機械的に訳している印象が強かったです。せっかくの名著ですが大変残念です。

英語のできる方なら原書を読むことをお薦めします。
在野のチャーチルから見た欧州危機
 この第1巻では主にチャーチルが首相就任以前の時代が描かれている。ドイツ、イタリアへの宥和政策に対する批判は当時から現代に至るまで続いているが、その主な論点は全て本書にカバーされている。在野のチャーチルのイギリス外交への視点は冷厳である。他方、本巻では在野で暇を持て余しているチャーチルの私生活についても垣間見ることができ、チャーチルが軍人出身でありながら文学や絵画をこよなく愛する文化人であることも分かる。チャーチルの人間的な魅力がにじみ出ているこの第1巻は、全4巻の白眉だと私は思う。

 難点は、訳の質の低さ。事実関係はあまり問題なく訳出されているが、肝心のチャーチルの考察があまり上手く訳されていない。原文が難しいのかもしれないが、それにしてもこの訳はあまりにひどい、と思われる箇所が少なくなかった。
遅すぎた帝国主義者、早すぎた反共主義者
 ヒトラー、ルーズベルト、スターリン、蒋介石など、役者の顔ぶれはこの上ない。しかもヒトラーとはすれ違いに終わったが、その他の役者とは実際に会って戦略討議をしているという、20世紀の希有な体験が綴られているのだから、これだけでもおもしろくないはずがない。

 暖房もない爆撃機に乗り込み、戦艦に座乗し、カイロ・テヘラン・ケベック・モスクワ・ワシントンと飛び回る70歳に近い老人のこのエネルギーは信じがたい。またこの救国の大政治家とその戦時内閣を、ベルリンの陥落とともに、対日戦の結果を待たずに罷免する英国の民主主義のしたたかさにも敬意を覚える。

 もっとも瞠目するのは、この著者の叙述の巧みさ、警句箴言の宝庫とも言うべき含蓄深い表現が見られることである。また対日戦にはあまり関心がなかったようであるが、ミッドウエイの劇的な日本の敗因を「言葉の複雑さ」であろうと推察したり、レイテ戦の栗田艦隊謎のUターンについては栗田に同情的で、独特の戦略眼もうかがえる。

 戦後の冷戦体制の芽生えや、近年重要視されている中東事情の萌芽に関する記述も数多く見られるが、そこは一方の当事者の述懐であるので、割り引いて読む必要があろう。中公新書「チャーチル」との併読を勧める。